2012年11月30日

秋の夜長にショートショート<コルダ>

連作、コルダ、大律です。

ちなみに、大蓬でも何か書こうと思っていたのですが、考えても考えても不幸にしかならないので(二人とも)やめました…。
副部長ず、幸せにするの結構難しい…orz

連作におつきあいいただきましてありがとうございました!
またしばらく潜ります…。忍人さんのお誕生日と、大地のお誕生日に、お目にかかれることを願って。



秋の夜は、長い。


「あれっ」
ずっと流していた曲に飽きて、気分を変えようと携帯音楽プレーヤーをいじっていた大地は、映像のフォルダにデータが入っているのを見て首をかしげた。基本、ここにはCDやネットから落とした音楽しか入れていないはずなのだが。
「買ってセッティングしたときに、試し撮りでもしたっけか」
とりあえず見てみるか、と、 映像を再生してみる。映し出された風景と、流れてきた旋律に、大地ははっと肩をふるわせた。
背景は学校。…森の広場だ。
人影は見えない。けれど、哀愁漂うメロディを、機械はしっかり拾っている。大地も、ヴィオラで奏でた経験はないが、ギターでなら弾いたことがある。真珠採りのタンゴという曲で、元は同名のオペラの中の、テノールのアリアだ。
演奏者を探すかのように映像はさまよう。本人に近づいたのか、少しずつ音が大きくなっていく。そして、ふと、目の前の茂みが開け、…画面は、すらりと立つ少年を映し出した。
入学したばかり、まだ初々しく幼さを残す顔立ち。だが、その風情に相反して、彼のつむぐ音楽には、深みと落ち着きがある。老練な演奏家のような。

−………律。

映像はふいに、律をフェイドアウトさせる。隠し撮りをためらうかのように。一方の律は大地の存在に気付いていないようで、奏でられる旋律は途切れず、惑いも揺らぎもない。
…やがて、曲のフィナーレとともに、映像も音も途切れた。
「……」
余韻を楽しむように、大地はそっと目を閉じた。
隠し撮りをしていたことをおくびにもださず、近づいて演奏をほめた自分。冷静に礼を言って、かすかに微笑む律。大地を何一つ疑わない、危ぶまない、その凛とした眼差しに気圧されて、隠し撮りをしていた自分が後ろめたくて、…けれど、その美しいメロディを消去してしまうのは忍びなくて。
……大事に大事にしまい込んで、すっかり忘れていたのだな、と、大地はほうっとため息をついた。
画像は途切れたけれど、耳にはまだ、あのすすり泣くような、歌い上げるような、ヴァイオリンの音色が残っている。
大地はふと、この曲の本当の名を思い出し、唇だけで苦く笑った。


−…耳に残るは、君の歌声。


posted by 麻井由紀 at 00:58| Comment(0) | TrackBack(0) | コルダ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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