2011年07月13日

ブログイベントリクエスト小説その5「殺気」

rin様からのリクエストです。

アシュ×忍人 お題は「敵」
 もしくは
大地×土岐 お題は「三十路」

とりあえず、先に書いてあった(そんな理由…(苦笑))アシュ×忍人のお題で書かせていただきました。
アシュ忍なんて、検索サイト様で探してもあんまりひっかからないのに、お二人もリクエストいただけて本当にうれしかった……!とても楽しんで書きました!自分的に大盛り上がりで書いた勢いが伝わるとうれしいです!

リクエストありがとうございました!また遊びにいらしていただけるのを楽しみにしています!!




殺気というものに美醜があるのだということを、この船に乗って初めてアシュヴィンは知った。

敵味方だった間柄の相手の船に共に乗せられ、困惑している兵達を、リブは何とか別れた場所に押し込んだようだ。味方に攻撃された衝撃と、戦友を失った無力感とで、皆疲弊しきっている。
アシュヴィンにも、鼓舞する元気はなかった。それどころか、重い枷を両手両足にはめられた気分だ。リブにすまないと思いながらも自室と定められた場所にこもる。
やがて扉の外から声がした。…リブだ。
だが、何度か呼んで、アシュヴィンが応えないと知ると、無理強いはせずに静かに去った。
やがて船内も静まりかえった。皆疲れ果て、とりあえず休んだのだろう。
「……」
ねっとりと重い闇。どこか淀んだ空気。船はまだ飛び続けているのか、かすかな振動を身体に感じる。だがそれ以外は、何の物音もない。
アシュヴィンはゆっくりと身を起こし、額に手を当てて、頭を一つ振った。
「……」
目を閉じれば、光に灼き殺された多くの兵の姿が浮かぶ。アシュヴィンを信じ、国を信じて従ってくれた者たち。その彼らを裏切ったのは、皇という名の、国そのもの。
「……」
舌打ちしそうになって、こらえる。悔いること、恨むことはいつでも出来る。今は、これから先どうするかだけを考えよう。
アシュヴィンはあることを思い定めて、部屋を出た。
船内を通ったとき、ここから庭に出られるのだと教えられた重い扉を開ける。
見張りに立っていたらしい狗奴の兵が、アシュヴィンの姿を見てかすかに肩をこわばらせ、それでも静かに黙礼をした。
返礼をして庭の中程まで進んだとき、アシュヴィンはふと足を止めた。
…ひどくおそろしくて、とてもうつくしいものがそこにある。……そう感じたのだ。
「……」
それは庭の突端に佇む黒ずくめの人影だった。
月光を浴びてすらりと立つその姿が、アシュヴィンに気付いてまとったもの。それは、匂い立つような殺気だった。

−…うつくしい。

その瞬間、アシュヴィンの脳裏を占めたのはその一言だった。
これ以上無理というところまで薄く研いだ刀のような、ごくごく細い糸で丹念に織った羅(うすもの)の縁のような、…押さえに押さえて、それでいて隙を見せればひらり瞬時に閃きそうな、殺気。
対峙して、しばし。
やがて、するりとその殺気は忍人の身の内に収まった。
「…すまない」
先に口を開いたのは忍人だ。
「一時的にとはいえ、今の君は船を同じくする仲間なのだから、押さえようとは思うんだが」
自分でも、殺気が立ち上ったことは自覚していたらしい。そしてアシュヴィンがそれに気付いたことにも。
「……いや」
応じるアシュヴィンは、自分でも驚くほど穏やかだった。忍人も少し驚いたようで目を見開く。
「……何故、君には殺気がない」
問われて、苦笑がもれそうになった。
「………疲れ切っていて、な」
その声のかすれた音、さびた響きに、忍人は眉をひそめた。…かすかに自分を悔いるような表情だった。
「……それはそうだ。…申し訳ない、つまらないことを聞いた」
「…いや。……そればかりではないから」
「……?」
けげんそうな忍人をアシュヴィンはじっと見つめる。警戒した彼からまたかすかに殺気が立ち上り、押さえ込まれて身の内に沈む。その一瞬の揺らぎ。

−…ああ、本当に。

「…俺は、魅入られたのかもしれん」
「……は?」
「お前の殺気はうつくしい。……こんなにうつくしいものを身にはらむ人間を殺そうと望むことなど、…俺には出来ん」

−……手に入れたい。我がものとしたい。

そう思ったが、口にはしない。
忍人は目を見開いている。唖然としていた。
「……何を、言っている」
理解できない。戸惑う声がそう言っている。アシュヴィンは首をすくめた。
「…わからないか。……かもしれないな」
わからなければ、いい。そのほうが、いい。
この船を下りてしまえば、またどうせ敵同士なのだから。
「聞き流してくれ。…邪魔をした」
忍人に背を向ける。…背を向けている人間に殺気を向けるのは失礼という配慮か、もう忍人から殺気は感じなかった。
それでもまだ、アシュヴィンの肌が覚えている。
匂い立つような、ひらめくような、その気配の切っ先を。そのうつくしさを。
posted by 麻井由紀 at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログイベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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