2010年11月01日

あいたた実験室

以前ブログに書いた、頭悪い子の戯言を皆様覚えておいででしょうか。

> ……配信イベントの土岐の告白、相手が大地でも使える気がする…(え)。

本当に使えるかどうか、実験してみることにしました。(……えー……)
実験にあたって、条件を三つつけました。以下の通りです。

条件1
土岐のセリフは、「小日向ちゃん」を「榊くん」に変更する以外はそのまま使用。
条件2
ひなちゃんのセリフも男言葉に変更する以外は基本的にそのまま使用。ただし、選択肢は一番大地向きと思われるものを選択。選択肢が行動の場合は、小説として成立させるためにセリフを創作して追加。
条件3
ゲームに存在しない地の文、大地(本来はひなちゃん)の心情描写は創作。

さて。土岐のひなちゃんへの甘い告白は、無事、薄暗い感じの大土小説になったでしょうか。
読んで笑ってやろうとおっしゃってくださる優しい方は、よろしければ続きへどうぞです。

*********************

「スキあり……やな」
うなじのすぐそばで不意に声がして、つん、とえり足の髪を引っ張られる。
大地は思わず肩をふるわせた。…一人でぼんやり夜景を見下ろしていて、気配を気にしていなかったのだ。
「ふふ、つかまえた。油断しとったらあかんで」
笑う蓬生は、けれど珍しく、
「驚かしてしもたら堪忍な」
などと殊勝なことを言う。
「ぼんやりしとる榊くんの背中が見えて、つい……なんやろ、衝動にかられてしもた」
土岐は唇に指を当てるのが癖だ。薄く笑う唇を秘密で閉ざすように。
「蝶々見つけたら、飛び立つ前にはよつかまえなあかんて気になるやろ?あれと同じや」冗談で笑い飛ばすかと思ったら、ふと、蓬生はまじまじと大地を見た。
「………榊くん。あんた神戸におるねんなあ」
……は?
意味がつかめず、大地がかすかに眉をひそめると、なだめるように蓬生はまた微笑みを浮かべる。
「昼間から思てたんやけど、どうにも不思議やわ。嬉しゅうて…夢見とるような気分や」
それは大地にとって思いがけない言葉だった。蓬生がこうも素直に、大地に真情を吐露するとは思っていなかったのだ。蓬生は微笑んでそんな大地の顔を見ていたが、その顔がゆるゆると曇り始めた。
「せやけど、夢はすぐに覚める。さっき会うたばかりやのに、もうすぐお別れの時間やね。これでまたしばらくは会われへんな。さびしいわ」
沈黙。憂うような横顔に何か言おうと大地が口を開きかけたとき、また蓬生から口を開いた。しかもそれは、大地の度肝を抜くような一言で。
「………なあ。このまま二人で、愛の逃避行しよか?」
「……愛の逃避行……?」
呆気にとられ、思わず復唱してしまう。くす、と蓬生が笑った。
「あんたと俺、二人だけで、誰も知らんところへ行かへん、ってお誘いや」
大地は息を呑む。…それは。…だがそれは。
「せや。お察しの通り、駆け落ちのお誘いや。俺たちのことを誰も知らへん街へ行って、二人で新しい生活を始めよか」
それはけれど、『彼ら』を後に残していくということで。
出来るのか、それが。俺に。…君に。
まるで大地の心の声を聞いたかのように、蓬生は一瞬すがるような目をした。
「俺は、あんただけおったらええわ。…あんたにも、俺だけおればええ」
真剣な声だった。
しん、と音が消えた気がした。向こうでは水嶋達が騒いでいる。騒ぐ彼らを叱る声も、通りかかる車の音もするはずなのに。
互いを探るようにねだるように見つめ合う。…長い時間のようにも思えたが、実際はたぶんほんの一瞬。
ふいと、先に目をそらしたのは蓬生だった。
「………夢物語みたいやね。現実はそう簡単なもんやない。せやけど……」
自嘲するようにつぶやいて、口をつぐむ。
「………」
何か考え込んで。
「なあ、榊くんは運命ってもん信じる?」
唐突に聞いてきた。
運命の一言で脳裏に閃いたのは、中学三年生の初春にめぐりあった、あのヴァイオリンの音色だ。
大地はうっすら笑った。
「信じているよ」
「意外かもしれへんけど、俺も信じとるんよ。運命の出会いには身近にいい例がおるしな。信じんわけにはいかへん」
……どういう意味だろう。
大地の疑問を表情からすぐに読み取ったのか、ああ、話してへんかった?と蓬生はようやく穏やかに笑った。
「俺の両親、駆け落ち結婚なんや。すべてを引き換えにする覚悟で、二人一緒に幸せを掴んだ…」
肩をすくめる。
「うちの親にしてはなかなかやるやろ。俺も恋するんやったら、ああいうのがええと思とった」
しみじみと言っておいて、すぐにははっと笑い飛ばすのは、照れか、あるいは自嘲か。
「ま、そんなしんどそうなん、俺には無理やろなあとあきらめとったんやけど…」
ふっ、とまた口をつぐむ。…大地は少し落ち着かない気分になった。
「今、俺は目の前に『運命』ってやつを見とる」
自分はこのまま彼の告白を聞いていていいのだろうか。
大地のためらいに気づきもせず、蓬生はきっぱりと言い放った。
「好きやで、…榊くん」
本気とは思えない。こんな場所で、そんな言葉を大地に向かって投げかけるなんて。離れた場所にせよ、東金もいる。律もいる。
ふざけているのかとかわすべきか、熱でもあるのかいとからかうべきか。…迷って。けれど。
「…俺もだよ」
俺も大概どうかしていると思いながら、大地はぼそりと言った。
…告白しておいて、まさか大地が自分と同じように答えてくるとは思わなかったのだろう。蓬生も少し目を見開いた。もしかしたら、熱でもあるのかとからかわれることを予想していたかもしれない。…彼を驚かせたことに、大地は少し満足する。
自分を落ち着かせるためにだろうか、蓬生は一つ息を吐いた。呼吸することで落ち着いたのか、どこか開き直った調子で、
「うん。…知っとうよ」
とは。言ってくれる。
「けど、せやったら俺に言葉をくれへん?」
しかし彼はまだ、このどうかしている遊びを続けるつもりらしい。大地は笑った。笑って言った。
「……土岐が好きだよ。…これでいいかい?」
「…ふふ。ええ子やね」
頭を撫でんばかりの子供扱いだ。からかっているのかと思いきや、案外目の色は真剣で、
「ありがとう。ほんまに、今ここであんたをさらいたいくらいやけど」
「……っ」
その真面目な目で、大地がびっくりするようなことを言う。
「…我慢しとくわ。距離を隔ててもつながっとる−−それが俺らの運命やと信じて、な」
距離を隔てて。互いに心に彼らの影を曳いて。…それがたぶん、俺たちの運命。
それでも蓬生は大地に告げる。
「せやから、榊くん。……一緒にいよな?今日も明日も、……離れてもずっと、一緒や」



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……もう何も言い訳はしません………。
心優しい皆様、あいたたな実験を読んでくださってありがとうございました!!
posted by 麻井由紀 at 00:07| Comment(0) | TrackBack(0) | コルダ小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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