2010年01月19日

そんな班があるんだ、と思ったこと。

衝動的に、某戦隊のじいさまの話を書いて友達に送ったら、「じいとの班の人が喜ぶわ!」…と言われました。

「じいとのファン」のタイプミスかと思ったら、その後も「じいとの班」とタイピングされていたのでどうやらタイプミスではない模様。

…班なんだ…。……そうか…………。

その話は既に友達のサイトで役目を果たしているのですが、最近あまりにもブログのネタがないので、ここでもちょっと働いてもらおうと思い、続きにしまいます。最新の展開を見る前に書いたものなので、本編とはずれがあります。某本編をご覧になっている方はご了承の上続きへどうぞ。





少し昔の話をいたしましょう。


先代の殿からその策を示されたとき、私はしばらく考え込んでしまい、すぐには承諾できませんでした。
確かに、今の世の中ではともかく、侍の家で影武者を使う策は目新しいものではございませんが、
「しかし、殿」
私の声にはっきりとした惑いがあることに、殿は眉をひそめられたようでした。
「…使う影武者は、そうも幼い子供でなければなりませぬか。…せめて、十かそこら、いやもう少し年上、…もう少し、もののわかった年頃の子供では?」
殿はいっそう難しいお顔になられました。
「今はまだ生まれてもおらぬ我が子の身代わりだ。あまりに年が開いていては不審を招き、策を見破られると思うが、何故そんなことを申す?」
「殿の仰る年頃ではあまりに幼すぎ、芝居は出来ぬと思います」
普通、幼い影武者は、何らかの形で若殿が表に出なければならないときだけ影武者の芝居をすればよいものです。若殿が家の奥で大切に守り育てられている常日頃は、ごく普通に家臣として、遊びや勉強のお相手でも勤めているのが普通です。
ですが、殿は、志葉家が長く太く続いていくために、生まれてくる御子を隠して、その御子のそのまた御子、御孫と、志葉家の血を引く子供が多く増えるまでは、本物の存在を何としても隠し通すと仰る。
つまり今影武者を仰せつかる子供は、二十四時間四六時中、殿のふりをしていなければならないのです。
「影武者としての己を知り、かつ殿として生きる。…それは、小さい子供にはあまりに難しいことなのではないかと拝察いたします」
すると殿はこともなげに仰いました。
「ならば当主として育てればいい。どのみち、真の我が子を当主として世に出すことはないのだ。影武者の子供がもののわかった年齢になれば、己のすべきことについて教え、それまではお前が当主なのだと言い聞かせ、当主としての教育を施す。…それでいいだろう、日下部」
暗にそれ以上は反論を許さぬと仰いたげな殿のご様子に、私もそれ以上は抗すことができませんでした。
「ご命令、承ります」
深く頭を垂れるしかなかったのです。


私が丈瑠様…ずっと殿とお呼びしておりましたから名前で呼ぶのはどうもしっくりしない。あえて丈瑠様を殿と呼ばせていただきます。
殿に、影武者のことをお伝えしたのは殿が十五になられたときでした。昔であれば元服している年頃、もう話しても良いだろうと思ったのです。
殿は思いもかけない話に、少し衝撃を受けた顔をなさいましたが、気丈にもそれを押し隠し、ただ、
「そうか」
と仰って、しばらく押し黙ってしまわれました。
私も、続く言葉のきっかけを失ってしまい、同じようにただ黙りこくっておりますと、やがて、長いため息をつかれた殿が、私の目をまっすぐに見て一言、
「辛かっただろう」
と仰いました。
「…何が、でございますか」
「秘密を抱えていたことだ」
「…」
ふがいない話ですが、私は一瞬息を呑んでしまいました。
「俺が理解できる年になるまではと、一人で抱えていてくれたのだろう。…ありがとう」
……。
…私は、胸が詰まりました。
大人の身勝手を呑み込み許せる彼の優しさが私には痛くて、けれど愛おしくて。
「…殿」
「何だ」
「儂は、どこまでも殿にお供つかまつりますぞ」
「…縁起の悪い物言いはよせ、じい」
殿は顔をしかめてそう仰ってから、ふいと目をそらされました。
「…それに、お前の忠誠は志葉家のものだ。…あまり、軽々しく物を言うな」
「………殿」
「…。今日はもう休む」
私の目を見ないまま、殿はすっと立って部屋を出て行かれました。開かれた障子の向こう、縁から見えた月の白く冷たい光を、私は今も忘れません。

実の孫のように私になついていてくださった殿が、少し私と距離を置かれるようになったのは、その夜が境だったように思います。それを寂しく思う自分と、そう思う自分の厚かましさとを苦く感じはしたものの、私にはどうすることも出来ませんでした。
…それでも、次の朝も、それからも、殿はずっと殿としての己を演じ続けられ、私も殿として丈瑠様にお仕えしてきました。
私は間違っていたのでしょうか。
たとえそれが幼い子供であっても、お前は影武者なのだと最初から教え、芝居をすることを強要すべきだったでしょうか。
丈瑠様ならば、それが出来たかもしれません。丈瑠様のためにはその方が良かったかもしれません。
……私は、間違っていたのかもしれません。
ですが、丈瑠様。…いいえ、殿。
私にただ一言を許していただけるなら、…あの日の言葉には偽りも間違いもございません。私は、私だけは必ず、どこまでも殿にお供いたします。
志葉家が私の主家であることは確かに如何とも変じませんが、それと同じく、私の殿はあなたただ一人、他に代わりはおられません。
あなたがならぬと仰っても、最後まであなたに殉じさせていただきます。
この彦馬、一生ただ一度のお願いでございます。どうかお許しくださいますよう。
posted by 麻井由紀 at 00:05| Comment(0) | 他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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